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外国にルーツを持つ若者の高校生活に関する調査

glolabは、外国にルーツを持つ15~30才の方を対象に高校生活に関するアンケート調査を実施しました。また、外国にルーツを持つ若者やNPO・支援団体関係者、高校教職員にはインタビュー調査も行い、課題と要因についての考察を行いました。



1.問題意識

 中長期間にわたって日本に在留する外国籍人口は、2020年6月時点で288万人を超えています。外国籍人口の増加にともない、保護者の仕事の都合などにより18歳未満で来日する子どもの数も増加しています。

 文部科学省「日本語指導が必要な高校生の中退進路状況の実態調査」(PDF)によると、日本語指導が必要な高校生は全国に4,000人以上おり、その人数はこの10年で約2.7倍に増加しています。

 また、中退率は9.6%(全高校生の中退率:1.3%)、進学率は42.2%(全高校生の進学率:71.1%)、就職者における非正規就職率は40%(全高校生の就職者における非正規就職率:4.3%)、就職も進学もしない進路未決定率は18.2%(全高校生の進路未決定率:6.7%)でした。

 外国ルーツの若者が日本社会で暮らしていくのは容易ではないことが見て取れます。そこで、外国ルーツの高校生が高校生活において抱える課題を明らかにし、その要因や対策案を考察すべく、調査を行いました。



2.調査概要

(1)目的
 外国ルーツの高校生が高校生活において抱える課題を明らかにする。

(2)方法
 定性調査による評価: 個別インタビュー及び座談会形式でのインタビュー
 定量調査による評価: 事前に対象者条件に合致したモニターへのアンケート調査

(3)対象者
 <当事者>外国ルーツの高校生や大学生及び社会人
  定性調査協力者:5名、定量調査協力者:65名
 <関係者>NPO関係者、ボランティアなど
  定性調査協力者:5名、定量調査協力者:7名
 <関係者>高校教職員
  定量調査協力者 : 21名



3.調査結果



 高校3年間は、勉学をするとともに将来のキャリアパスを考える重要な期間です。外国ルーツの高校生は、「言語の壁」「居場所」「進路・キャリア」「お金や在留資格」など様々な課題に直面しています。

 しかし、高校現場では、外国ルーツの生徒の課題を発見することの難しさや、お金や在留資格などについて個別に支援するのが難しいケースがあります。また、家庭からのサポートも十分ではない場合があります。

 よって、学校内・外で安心して活動できる居場所をベースに生徒に寄り添い、個別に伴走支援すること、NPOと学校が生徒の情報と支援に関する知見・ネットワークを共有し、連携することが重要だと考えられます。



■外国ルーツの高校生が抱える4つの課題

外国ルーツの高校生は、大きく4つの課題を抱えています。

 1点目は、日本語習得が不十分であることです。背景として、高校で日本語指導を受けられる機会が少ない点や家庭で日本語に触れる機会が少ない点が挙げられます。その結果、授業についていけないようになります。

 2点目は、日本語ができないことによる孤独感、いじめによる母文化・アイデンティティの否定といったメンタル面での問題です。学校で居場所が見つからず、「中退を考えた」という声もありました。

 3点目は、進路先やキャリアの情報や能力を育成する機会の不足です。学校では個別にキャリア教育や支援を行う余裕はあまりなく、大学・専門学校等の情報提供だけになる場合があります。また、親とのコミュニケーションが不足していたり、親が労働者として苦境の中で暮らしている場合には、将来の働くイメージが抱きにくいようです。さらに、親が子どもの教育や将来のことについて無関心であったり、考える余裕がない場合もあります。

 4点目は、学費や奨学金、在留資格への対応です。専門性や複雑な手続きが求められる領域では弁護士等による支援が必要ですが、十分に連携がされていない場合があります。



 以下にてもう少し詳しく分析していきます。



■13歳以降に来日した生徒の半数が、日本語習得・教科学習・学校文化への適応課題を経験

 アンケートでは、13歳以上で来日した生徒の約50%が、「言語習得・教科学習・学校文化への適応」が課題だったと回答しました。実際に、インタビューでは以下のような声が寄せられました。

 「授業の理解が十分できない、勉強ができない」
 「友達ができない」
 「日本特有の学校文化・上下関係がわからない」

 インタビュー回答者には、短い期間で受験勉強をして高校入学を果たしたものの、教室や部活で良好な人間関係を築けずに居場所を失い、「やるせない気持ちや孤独感を抱く中で高校中退を考えた」という方がいました。一方で、来日当初は日本語習得が難しかったものの、母国で学んだ英語や数学を生かして大学に進学した方もおりました。



■将来像やキャリアパスを描くための情報や能力を育成する機会が不足

 外国ルーツの高校生は、日本語習得と教科学習に励みながら将来の目標に向かってキャリアパスを模索しています。しかしながら、その過程は決して容易ではありません。

 アンケート回答者の約2割は、以下のように、将来像の探索に課題を抱えていたと回答しました。

 「自分が好きなことや得意なことがわからない」
 「勉強したいことがない」
 「高校を卒業してやりたい仕事がない」

 また約4割が、進学や就職の意志があったが、大学や企業の情報に十分にアクセスできず、もっと情報がほしかったと回答しました。

 実際に、インタビューでは以下の声が寄せられ、将来像を描けずキャリアパスを十分に検討できないまま、限られた方からの情報を基に進路選択をしたり、場合によっては進学・就職を断念して帰国するケースがあることが分かりました。

 「支援団体のボランティアからの情報提供で進学先を決めた」
 「親の知り合い勧めで就職先を決めた」
 「周りに進路について相談する相手が見つからず、進学・就職を断念して帰国した」

 一方で、3割近くの方が「外国ルーツの大学生や専門学校生徒の交流」「ロールモデルの経験談」「インターンや働く体験」が必要だと回答しました。境遇が近い友人や先輩からの生の情報に接したり自ら体験して学びを得ることで、より多くの選択肢を得て、より納得感のある進路選択ができると考えられます。



■「在留資格」や「学費・金」など生徒の事情に即した個別支援が必要

 「在留資格」や「学費・お金」などについて、生徒の事情に即した個別支援が必要です。

 ただ、高校教職員からは、「どんな課題を抱えているかよく把握できていない」「入試情報や仕事の紹介、先輩の話などの情報提供が十分にできていない」といった指摘がありました。また、「外国ルーツを活かせる大学入試制度を活用したり、外国ルーツの強みを生かせる分野への進路指導をしたいが、先生によって知識の差・経験の差がある」という悩みを抱える方もおりました。

 高校教職員は様々な事情を持った生徒を多く抱えている場合があり、外国ルーツの生徒と接して進路指導する時間が限られる場合があります。また、保護者とコミュニケーションをする際に、言葉の制約もあります。加えて、在留資格等は専門的知識が必要です。

  一方、家庭からのサポートも十分ではありません。アンケート回答者の約10%が進路やキャリアについて「親に相談したことがない」と回答しており、その理由として、「両親が(飲食店の経営や工場勤務などで)多忙だった」、「教育にあまり関心がなかった」ことを挙げました。「親に進学の相談をしてもあまり関心がなかった。結局自分でお金を工面して進学した。」といった方も含めると、家庭からのサポートが十分ではないケースが少なくないと考えられます。



4.今後に向けて

 上述の通り、外国ルーツの高校生が直面する課題は多岐に渡ります。これらの課題を解決するためには、学校内・外で安心して活動できる居場所をつくり、そこをベースに生徒に寄り添って伴走支援する必要があります。その中で、以下の活動が重要になると考えます。

 ■潜在的な潜在的な課題を生徒に周知し、当事者意識を持って自ら解決に導くように伴走をする。
 ■教職員がより積極的に外国ルーツの高校生に問いかけや働きかけをして、潜在的な課題を把握する。
 ■NPOや弁護士等の専門家と連携し、生徒が潜在的な課題と支援ノウハウ、情報を共有し、協働する。

 glolabは、外国ルーツの高校生に対して、包括的な支援体制を提供し、一人でも多くの外国にルーツを持つ若者が自分の人生にオーナーシップを持ち、納得感をもって進路選択ができる社会を作っていきたいと考えております。



5.本調査の限界

 当事者へのアンケート調査の回答者数(母数)は65名でした。そのため、どの項目も統計的に有意であることを説明するには十分ではありませんでした。しかしアンケート調査で明らかになった課題や仮説をインタビュー調査において検証し、考察を深めることができました。今後は、より多くのサンプルで調査ができるように、地方自治体や学校、支援団体と連携して進めたいと考えます。

 調査対象は「外国ルーツ」の高校生や大学生及び社会人でした。「外国ルーツではない」の高校生や大学生及び社会人のデータがないため、比較による考察ができませんでした。またそれを補足するデータとして、高校教職員へのインタビュー等による定性データも不足しました。今後は高校教職員等への調査を通じて、より考察を深めたいと考えます。



6.最後に

今回、お忙しい中アンケートにご協力いただいた外国にルーツを持つ若者の皆様、都立高校の教職員の皆様、特定非営利活動法人多文化共生教育ネットワークかながわの皆様、特定非営利活動法人多文化共生センター東京の皆様、特定非営利活動法人みんなのおうちの皆様、その他支援者の皆様(順不同)のご協力に心より感謝申し上げます。

本調査は、以下のメンバーが担当しました。

調査: 景山、柴山、人見、司馬
報告: 景山、白戸