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自分にとって事業を興すのはあたり前の選択でした。 

岡村アルベルト
フォーブスジャパンが主催する「次世代を担う30歳未満の30人」に選出されるなど、起業家として注目を集める岡村アルベルトさん。日本人の父親とペルー人の母親のもとに生まれ、6歳で来日。現在は「世界から国境をなくす」をミッションに掲げ、ビザ取得を簡易化するサービス「one visa」を中心に事業を展開しています。日本で教育を受け、経営者として活躍する岡村さんに、自らの歩みと外国にルーツを持つ子どもたちへのアドバイスを語っていただきました。


教育を重視する母親の意向で日本へ

― お父様が日本人でお母さまがペルー人とのことですが、来日の経緯は?

 日本に来たのは、母の人生計画の1つだったんです。母は16歳の時に国費留学生としてペルーから来日したのですが、当時の日本は経済的に世界で最も成長している国で、教育面でも注目されていました。母は実際に日本に来てみて、文化や人付き合いなどの面において、すごく居心地がよかったらしいです。

 発展途上国では教育の機会にあまり恵まれない人たちが多く、子どもができたら日本で育てたいと母は思っていたようです。父親が日本人だったということもあり、私の義務教育がスタートする6歳の頃に大阪に移住することになりました。

― お父様はどんな方だったんですか?

 自分で事業も行うなどチャレンジ精神豊かな人です。

― 日本の公立小学校に入学したのでしょうか?

 そうです。ただ、転校が多く小学生の頃には4回転校しました。

― 小学1年生で来日したので、言語習得などの苦労はあまりなかったのでしょうか?

 何歳で来てもそれなりの苦労はすると思うのですが、吸収の仕方が年齢によって変わるとは思います。

 最初に通っていた小学校にはフィリピン人の双子と、韓国人の子が1人いましたが、外国人と一目でわかるのは私だけだったので、いじめられたりもしました。でも、それほど長く続くようなものではなかったですね。周囲に楽しいやつだと認知してもらうことで、私の場合は回避できたのかなと思います。ただ転校が多かったので、毎回ゼロから自分という人間を知ってもらわないといけないという難しさはありました。自分を認知してもらう努力を転校するたびにしていたので、そのことが結果的には良かったのかなと思います。



起業に繋がった幼少期の体験

 元気に小学校生活を送っていた岡村氏だが、その後の人生に大きな影響を与える出来事が起きる。同じく外国にルーツを持ち仲良くしていた同級生が突然、学校に来なくなったのだ。後にその同級生は在留ビザ申請の不備で、本国に強制送還されたらしいことが分かった。こうした原体験を通じて、岡村さんの中で起業へとつながる問題意識が育まれていった。





― お友達がビザの不備で突然いなくなったとのことですが、やはり強烈な出来事だったのでしょうか?

 そうですね。小学生の時の話なので、もちろん強制送還や在留資格についての細かい知識はなかったのですが、友達がいなくなったという喪失感は大きかったですね。その後、知識がついてくると、何が起きたか徐々にわかってくるようになりました。自分自身に重ねると、友達はもしかするともっと日本に居たかったのではないか、何がダメだったのかといろいろ考えてしまいました。そうした日本人とは違う感覚を持てたことが、後に起業する際には武器になったのではないかと思います。

― 本格的に起業しようと思ったのは何歳ぐらいのときですか?

 その経験が持つ意味を、しっかり言語化できたのは起業する前後くらいのタイミングでしたが、ぼんやり認識し始めたのは大学生ぐらいですかね。

― 将来の仕事やキャリアについて、中学生や高校生の頃はどう考えていましたか。

 僕の場合ははっきりしていました。というより、はっきりさせられたと言ったほうが正しいかもしれないですが、母からずっと「経営以外は仕事ではないよ」と刷り込まれていたんです。母親自身が経営者だったということもあると思いますが、「仕事というものは自分で何かを作り上げることであって、何かをやらされたり作業をこなしたりするのとは違う。どうせ何かをやるなら自分の会社でやるべきでしょ」と、言われ続けて育ったんです。ですから、自分にとって事業を興すのは当たり前の選択でした。


「違い」を意識できる能力が宝に

― 最初に働いたのは東京入国管理局だったんですよね?

 入国管理局の業務を受託している民間企業でした。将来起業しようという気持ちは自分の根っこにあったのですが、大学進学を決めるときに、マネジメント創造学部という面白い学部が甲南大学に新設されたと聞いたんです。学部の説明を聞いて特に刺さったのは、学術的な知見が世の中の実践的な部分でどう役立っているのかを重視する部分です。その学部は社会で必ず何か仕事をなしえた人たちが、教鞭をとることを謳っていました。授業の中で、教授たちがコラボしている民間企業の課題についてプレゼンさせてもらったりするうちに、新規事業の立ち上げに対する興味が増していきました。

 就職活動では新規事業ができるベンチャー企業をメインに受けていたのですが、内定をいくつかもらいながらも、自分にしかできない仕事なのかと考えるようになりました。入管の業務をやっている会社であれば、外国にルーツを持つ自分だからこそわかることもあるのではないかと。

  入国管理局に勤務して岡村さんが気付いたのが、業務の非効率性だった。特に日本語の理解が不十分な外国人にとってビザ申請や更新のための書類作成は非常にハードルが高く、手続きのために1日に千人以上が窓口に列をなす風景も日常的だったという。改善策を提案したものの、状況は変わらなかった。
 そこで、自ら書類作成を簡易化するサービスを立ち上げようと決意し、2017年にビザ申請や管理を支援するウェブサービス『one visa』をリリース。現在は外国籍人材を雇用する法人向けを中心に展開している。一方、外国人労働者の受け入れ拡大を図る改正出入国管理法の施行に伴い、特定技能実習生を支援するサービスも開始した。現在は新型コロナの影響で活動の一部は休止しているものの、コロナ収束後のさらなる飛躍を目指して準備を進めている。




― 事業家として活動されて、「自分だからこそできること」について、どんな部分だと認識していますか?

 自分に限らず、「違い」を認識しやすいというのは、外国にルーツを持つみなさんが持っている部分ではないかと思います。私の場合は6歳で日本に来たのでそこまでではないかもしれませんが、中高生になってから来日した場合は、自分の中で形成されている当たり前の基準と、移住先の基準との間に感じる差分が大きくなるでしょう。来る前にイメージしていたものと違ったり、文化に馴染めなかったり、差分を感じてしまうがゆえに、苦しむことが多くなります。

 これは一見ネガティブに捉えられがちなのですが、良い面もあります。以前、ある媒体にアメリカのIT系有力企業の半分は移民か、移民の背景を持つ人が創業し、さらに創業者以外の設立メンバーにも同様のケースが8割という記事が載っていました。その記事を読むまでは、「違いが分かる良さ」についてフワっとした認識だったのですが、ビジネス的な視点からも確かなものだと認識できました。

 母国の良いところと、移住した国の悪いところの差分をきちんと書き留めていくなど、葛藤がある時期に言語化していくことができれば、自分のキャリアを形成していくうえで非常に役立つと思います。差分を一つ一つクリアにしていけば、「こういうことを成し遂げる人間になりたい」「こういうことができる会社に勤めたい」といったことが想像しやすくなるのではないでしょうか。

 馴染めない感情など、一見するとネガティブに捉えられるものは差分によるアレルギー反応みたいなもので、自分の財産だと思って向き合えば貴重な宝になります。

― 差分を意識する能力は、外国にルーツを持つ子どもたちに限らず日本人の子どもたちにとってもとても大事だと思います。

 そうですね。ただ、外国にルーツを持つ子どもたちにとっては、それを言い訳にしてしまいがちになるんです。「外国にルーツを持っているから馴染めない」という言い訳が自分を保護する一方で、周囲との壁を作る呪いの言葉にもなってしまうので注意が必要です。


外国にルーツを持つ人ほど学歴を大切に考えてほしい

― 今、進路やキャリアに悩んでいる外国にルーツを持つ子どもたちにアドバイスを送るとしたら?

 独自の価値観を持っている外国にルーツを持つ人は、宝の原石になり得ます。もし日本がどうしても合わないのであれば、日本に固執して生きていく必要はないと思います。日本にも良いところと悪いところがあるので、そこをはっきりさせたうえで母国に帰っても良いし、場合によっては日本以外の国に住んでもいい。

 一方で、外国にルーツを持つ者として日本で生きていくのであれば、学歴が大切になることも理解してほしいです。在留資格の取りやすさに関しても言えますが。母国に帰ったほうが、学歴がなくても能力があればOKと見なされる場合があることも否定できません。将来の進路について悩むにしても、大卒相当の資格などを取得したうえで悩まないと、気付いた時にはなにもできなくなってしまう可能性もあります。ですから、学校で学ぶためのモチベーションとして、日本人とは違う部分があるということを認識してほしいと思います。

吉田浩 取材・執筆



▶ 今回記事で取り上げました岡村アルベルトさんの別インタビューが経済界WEBにも掲載されております。ご一読ください。

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