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glolab グロラボ

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glolabの事業対象課題と事業設計の妥当性についての有識者コメント

はじめに

 glolab(グロラボ)は休眠預金等活用法に基づく実行団体(民間公益活動を行う団体)として、 公益財団法人日本国際交流センター(JCIE)の「外国ルーツ青少年未来創造事業」の助成を受ける形で、外国ルーツ青少年の社会的・経済的自立に向けたキャリア形成の支援ツールの開発とロールモデルコミュニティの創出を行い、新たなアプローチで社会課題の解決に取り組んでおります。

 休眠預金等活用法では、社会的インパクト評価の実施を求めており、当団体としても、課題の分析や事業設計の分析等について実施し、積極的に発信したいと考えております。

glolabが目指す姿

glolabが行った、「外国にルーツを持つ若者の高校生活に関する調査」でも明らかになった通り、外国ルーツの高校生は、高校入学後、日本語力不足で授業を理解できず自己効力感を失ったり、進学・就職の情報を適切に入手できなかったり、また高校側も生徒の課題に対して十分な把握・対応ができなかったりする等の問題に直面することが多く、中退や進路未決定の状態で卒業するなどの問題を抱えています。

glolabは、将来起こりうる課題のLINE診断ツールや進路・在留資格等に関する多言語の動画配信やロールモデルとしての外国ルーツの社会人・大学生と助け合う、学び合う場の形成を通じて外国ルーツ青少年の自律学習を促す仕組みを、オンラインとオフラインを組み合わたプラットフォームの構築を目指しています。また、高校現場での法律・生活・日本語教育にかかわる教員研修施を通じて、複数分野の専門家や行政、学校と連携したバックアップ体制作りにも取り組んでおります。

上記を踏まえ、渡戸一郎 明星大学名誉教授(元移民政策学会会長、元日本都市社会学会常任理事)に、glolabの事業対象課題と事業設計の妥当性について、コメントを頂きました。今後も、受益者の要望や有識者のアドバイス、ステークホルダーの声に耳を傾け、外国ルーツ青少年を支援する包括的支援プラットフォームの構築に取り組む所存です。


事業対象課題と事業設計の妥当性に関する有識者コメント




渡戸一郎(明星大学名誉教授)



 本事業の実施前評価に当たり、社会的インパクト評価の5つの原則(①多様な関係者の参加、連携、協働、②信頼性、③透明性、④重要性、⑤比例性[等身大の評価])を念頭に置いて評価に当たることを、はじめに確認しておく。



1.特定された課題の妥当性

 ニューカマー外国人の定住化の進展にともない、外国ルーツ(外国籍・日本籍)の子どもの日本の小中学校での日本語教育や適応教育、そして不就学の問題が顕在化してから四半世紀が経つ。そこには日本の学校文化の問題も指摘されてきた。その後、当事者を含む市民団体等の働きかけもあって、政府や自治体の取り組みが一定程度進展してきたが、高校段階の外国ルーツ青少年に対する支援制度は、全体としてかなり遅れてきたと言える。

振り返れば、神奈川県ではNPO法人多文化共生教育ネットワークかながわ(ME-net:1995年発足)が中心となり、県教委と協働して、入試改革や外国ルーツの高校生の支援制度(多文化教育コーディネータ―派遣など)を展開し、先進事例として注目されてきた。しかし東京都では、外国ルーツの高校生が増加してきたにもかかわらず、こうした取り組みは大幅に遅れてきた。

だがこの間、この問題に取り組むNPO等の活動が進展するとともに、都立高校(とくに定時制高校)の教員やNPO、法律家、研究者らによるネットワークが形成され、多言語による進学ガイダンスや情報提供、高校や都教委への働きかけも行われようになってきた。そこでは、高校教員間や各高校の現場で、課題意識を共有し、外部の団体や機関と連携できる条件を作っていくことが求められている。

本事業は、こうした社会背景のもと、事前調査を通じて日本の高校に進学した外国ルーツ青少年が抱えるニーズを把握・分析し、課題を設定したものと評価できる(なお、事前調査は時間的物理的にかなり制約されたなかでの調査ではあるが、当事者や学校現場のニーズや課題を一定程度把握できていると考える)。具体的には、外国ルーツ青少年の調査により、高校進学の支援とともに、入学後の支援の重要性(とくに居場所やロールモデルが見つからない場合、高校中退の可能性が高いこと)が明らかにされている。

一方、NPOや高校教員の調査からは、外国ルーツの生徒が抱える課題は見えにくく、支援のリソースを教員から提供できていない学校現場の現状もうかがえる。それゆえ、NPOと学校(教員)が、生徒の情報と支援に関する知見、ネットワークを共有し、連携することが基本的に重要である。

以上のように、本事業により特定された課題には妥当性が十分に認められるが、近年ではさらに、学齢超過で来日し、来日後すぐに日本の高校進学を目指す青少年が増えており、進学支援および在籍中の学習とキャリアの支援のニーズがより大きくなっていることも踏まえる必要がある。



2.事業対象の妥当性

 外国ルーツの高校生にとって、高校3年間は将来の進路選択を含め、アイデンティティ形成の重要な時期に当たる。母国で学習してきたことを土台に、日本語習得と教科学習に励みながら将来のキャリアパスを考えるという、きわめてハードな課題を一つひとつクリアしながら、彼・彼女らはこの3年間を過ごす。

しかし、とくに来日間もない生徒は、学習や進路で困難に直面し、母国では学力があっても日本では大学に行けない、情報が乏しく大学進学を断念した、キャリアパスを十分描けずに中退した、といったケースが生じる。

だが多岐にわたる問題を高校現場ですべて解決するには限界があることから、本事業のような形で外国ルーツの高校生を対象とし、彼・彼女ら一人ひとりの個別性・多様性に配慮した学習・進路・資金計画の支援やインターンなどの体験の機会の提供を行うことはきわめて重要である。

近年、来日するネパール人などのコックの父親に帯同して「家族滞在」の資格で在留する外国籍生徒が増えているが、高校卒業後の就職する際、一定条件のもとで「定住者」または「特定活動」への変更が必要になる。こうしたビザの問題や法律相談などのニーズにも対応した事業の展開が求められている。

 本事業は東京を中心とした都市圏の外国ルーツの青少年を主な対象としているが、オンライン事業の活用により、広く地方の散住する外国ルーツの青少年も対象に含めている。そこでは、オンラインで相談できる場を設けることも有効になる。



3.事業設計の妥当性

上述のように、外国ルーツの高校生が直面する多岐にわたる課題を解決するには、NPO等の外部団体と高校現場の連携が重要になる。それゆえ本事業が、以下のような、主体別の3つのアプローチを重視する事業設計となっていることは、十分評価に値しよう。

(1) 問題と対策案の可視化を通じて、生徒の意識変容を促し、自助努力で解決する。この場合、生徒の「将来設計に取り組む意欲の度合」や「将来像の具体化の程度」を踏まえながら、進路情報の提供、教科学習や進路選択の伴走支援をする。
(2)当該問題に関心がある教員と連携して解決する。ただし高校教員が生徒と接する時間は個人差があり、とくに法律相談等の対応は難しいので、この場合は学校と連携して進路・法律の相談を実際に行う。
(3)研修やワークショップを通じて、当該問題に関心がない教員の意識・行動変容を促して解決する。教員の理解度や問題意識の変化、研修後の生徒への接し方の改善度を踏まえながら、徐々に教員の行動変容につなげ、連携を強化していく。

本事業はこうした支援のプラットフォームとして、オンラインによるコンテンツ配信、自己診断、相談を実施するとしている。そして、まずはサービスの認知向上と支援事例の蓄積が必要であるとされている。

以上のような事業設計はおおむね妥当だと言えるが、問題は当面、a) 事業遂行をオンラインで行うメリットとディメリットを見出し、オンラインからオフラインへの切り替えを必要に応じてどう行いうるか、そしてb) 各学校の教員にいかにアプローチし、結果として、各学校における本事業に対する理解と受容がどれだけ進むかであろう。

校長のレベルでもこうした問題に対する温度差は、依然として大きいように見える。この点を考えると、校長などの管理職レベルの教員研修の機会を得ることが重要になるだろう。



4.事業計画の妥当性と今後の課題

 本事業の事業計画では、現行の教育制度のもとで、高校と連携しながら実行可能な解決策を行い、問題の発見と解決事例を蓄積することが目指されている。積極的な情報発信、在留資格等の診断機能の提供、相談窓口の設置等を、できる限りオンラインで対応することで、オフラインでの支援が難しい問題を克服し、かつランニングコストを抑えるとしている。これらはおおむね妥当だろう。

 しかし一番の課題は本事業が広く認知され、その有効性が、当事者である高校生、そして高校の教員や関係者に着実に評価されていくこと、そして事業の成果として、高校卒業後の進路選択ができる当事者が増えることであろう。こうした本事業展開の持続可能性のキーは、提供しうる情報サービスの信頼性と、発信力をつながる魅力あるコンテンツの創造だと思われる(そして、適宜、オフラインの居場所づくりも)。

そのためには、
a) 本事業が構築する支援プラットフォームにつながる元当事者の先輩グループや個人、(元)教員、外部の支援者(市民活動者、専門家、自治体職員、企業など)との社会関係資本を構築すること
b) 他団体等との連携・協働の形成を事業の土台を支えるものとして大切にすること
c) プラットフォームのスタッフ間での丁寧な振り返り作業(ケース検討会等)や、学習・研修の機会の確保すること
が重要ではないだろうか。また、事業の中間報告をかねたシンポジウムなどを開催し、開かれた場で振り返りを行うことも有効だと思われる。



以上

この記事は、事業対象課題の分析と事業設計を担当した景山 宙が担当しました。